失踪・・・です

公開日: 

ギャンブル依存症の家族支援をしていて、
度々見舞われるのが失踪事件ですが、
今もまた仲間の失踪事件に立ちあい、試練に立たされています。

ある日突然、普通に会社に出かけていった夫が、
出社していないと知る、その衝撃、
そしてそこから始まる心労。
一般の方々に想像つくでしょうか。

失踪は死と紙一重です。
私も、その苦汁を何度も味わって参りました。

「人はそう簡単には死なない。」
最初の死に出会うまでそう思い、
なめてかかっていた所がありました。
当時はまだ全くの素人であったことも大きいかと思います。

そして私が繋がった頃には、医師でさえ
「ギャンブラーは死なない」と、
なんの根拠もなく、セミナーなどで公言されていました。
だから私たちもそう信じ、
失踪しても「待つ」という選択しかとることをしませんでした。

けれども7年前にスポンシーのご主人の自死に出会い、
私の人生は一変したと言っても過言ではありません。
今でも大きなトラウマになっています。
そしてそのトラウマは、その後も増え続けています。

あの事件以後、私はご家族から失踪の相談があった場合に、
間髪いれず「即、捜索願いを出しなさい!」
と伝えることにしています。

家族によっては、大ごとになるのを恐れ、
「たった1日で・・・もう少し待った方が・・・」
などと言いだす場合もあります。

けれども経験した私にはわかるのです。
「その1日が、大きな後悔となることがある」と。

あの夜何故「すぐに捜索願を!」と家族に伝えなかったのか。
何故、呼びかけなかったのか。
この責めは、私が一生背負っていくであろう十字架です。

あの日から、私の葛藤が消えたことはありません。
「重大な責任を担う、依存症の家族支援なんてもう辞めたい・・・」と。
けれども、私が逃げることこそ、
死を持って伝えてくれたメッセージを無駄にすることだと、
今でも私は家族支援を続けています。

多くの家族の仲間に是非お伝えしたいのです。
もし、あなたの身近な仲間や、スポンシーのご家族が、
失踪事件を起こしたなら、間髪いれずアドバイスして下さい。
「捜索願をすぐに出して」と。

車を持っていった場合は、
ナンバーなどの車が特定できる情報も、
必ず伝えて欲しいのです。
社用車に乗っていってしまった場合は、
会社に問い合わせて、車の情報を必ず聞いて警察に届けて下さい。

警察は、捜索願を出しても積極的には動いてはくれません。
でも、何かがあった時に、
やはり日本の警察力は素晴らしいものがあるのです。

人気のない所に、長時間止まっている車、
不審な動きをする車、
何かの拍子に見つけてくれることは、多々あります。
彼らだって心のどこかでは見つけて欲しいのですから。

私は、こういう正念場の時に、
家族の仲間には優しく言ったりしません。
家族もまたパニックになり、恐れでいっぱいになっています。

あぁでもない、こうでもないと、
未来の不安にとらわれ、どうでも良いことに引っ掛かり、
全く身動きできなくなります。

冷静な判断ができなくなり、常識はぶっとび、
時間の判断もできなくなるので早朝から
「会社にこう言われたら何と言えば良いですか?」
などと連絡して来ます。

こんな時は「私の方が過労で死ぬ!」と思うこともしばしばです。
でも、失踪事件が起きた時には、
絶対にマナーモードにして寝ることなどできないです。
そもそも心労で私も殆ど寝れなくなります。

とにかくやれるだけのことを、やるしかない!
家族のパニックを冷静に交通整理し、
「すぐに捜索願を出して。」
「ご主人の実家に連絡して。」
「会社にはこう答えて。」
「出てきたら、どうする?施設に入って貰う?そこは家族で決めておいて」
と、叱咤激励しながら様々に指示をします。

グズグズと膝から崩れ落ちていくような家族の仲間に、
私は「しっかりしろ!」と言い続けます。
こんな時の私は、とっても怖いと思います。

でもそれでいいのです。
正念場に、優しく受け入れてしまうと、
そもそも共依存の人たちは、
自分の責任を他人にとって貰いたい人たちの集まりですから、
自己憐憫の塊になり、
動けなくなってしまうのです。

今は可哀想ぶっている場合などではないのです。
やるだけやって、あとは待つしかない。
そして待つ間も、家族にとっては地獄です。
だからなるべく忙しくなるよう、
あれやれ、これやれと言います。
ヒマだとロクなことはないからです。

失踪後、無事見つかれば、
ピンチは最大のチャンスに変わります。
そこで対応を間違えてはいけません。
そのチャンスの瞬間を恵みに変えるのです。

チャンスは一瞬です。
そしてそう何度もあるわけではありません。
その時に、最善が尽くせるよう、準備が必要なのです。

家族が、ホッと出来、思いっきり泣いていいのは、
そのチャンスをものしてからだ!
これが私の基本スタンスです。

もちろん失踪が長期化してきたら、
またその都度対応を変えていく必要がありますが、
正念場には、正念場の気合が絶対必要なのです。

今、さまよっている仲間は、
朝、出かける時に子供たちを抱き締め、
涙ぐみながら出ていったそうです。
その様子に、奥さんも不安を抱いていたそうです。

何かを決意したその涙を、
今度は安堵の涙に変えて欲しい。

子供たちは待っています。
お父さんが抱きしめて出ていった想い出を、
最後の想い出になんてしないで。

絶対、絶対に生き伸びて。
そう信じ、祈っています。
仲間の皆さんも、どうぞお祈り下さい。

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