映画「ムーンライト」評です

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映画「ムーンライト」。今年、私にとってこれ以上に観るべき作品は、
おそらく出てこないでしょう。
本当に素晴らしい作品でした。

言葉にしてしまうと、あの作品の深みのようなものが、
ペラペラな薄っぺらいモノになってしまいそうですが、
それでも書かずにはいられないので書きます。

私のこの映画に対する思いが、伝わっても伝わらなくても、
映画は絶対に観に行って欲しいです。
特に依存症者とその家族、そして支援に関わる人達には、
是非とも観て欲しい作品です。

この映画は、薬物依存症者の母親を持った息子の話で、
彼の少年期、思春期、そして大人になってからの姿を描いています。
こうやって書いてしまうと、
クリスティーネFのような悲惨な薬物依存症者の映画や、
救いのない虐待家族の話しを想い浮かべてしまいそうですが、
この作品は決してそういった、惨めで暗いだけの映画ではありません。

悲惨な中にも、必ず救いが描かれており、
尚かつ、どんな悪事に手を染めていようとも、
心の一番奥底に秘めた、魂の求めを忠実に描いています。

そして、この映画の素晴らしさは、
依存症家庭やその周辺の人達に起こる出来事や会話に対する、
圧倒的なリアリティ。

ギャンブル依存症家庭を描いた小澤雅人監督の短編映画「微熱」もそうでしたが、
この映画も脚本家、そして監督も、
実際に自分たちが子供時代に体験してきた世界を描いているだけあって、
セリフに端々にまで、神経が行き届いています。

そして、その「本物」だけが持つ、リアリティを見抜けるのは、
我々アディクトとその家族だけではないでしょうか。

ネタばれになるので、細かい事まで書けないのがもどかしいですが、
この映画は「何故、薬物という武器が必要だったのか?」を教えてくれる映画です。
依存症者やその人を取り巻く人達が、薬物を憎みながらも、
薬物に頼るしかなかった現実。
そして自分の中で抱え続ける、矛盾と葛藤。
そういったものが美しい映像と共に見事に表現されています。

何よりも多くの人達に知って欲しいのは、
どれだけ悲劇的な状況でも、回復への希望はあるのだ!ということ。

一般の人達には、あれだけのトラブル渦巻く人生を生き伸びた人達の歯車が、
ひとたび回復へと逆回転をしはじめ、
生き方を変え、人を助ける方へと向かったなら、
それがどれだけ圧倒的なパワーを持つことになるか?
そのことを是非是非想像してみて欲しいと思いました。

あれだけ壮絶な人生を生き抜くために、
彼らが身につけた武器は、
薬物、セックス、暴力、金、武器、高級車と、
一般の人達には理解ができないことかもしれません。
けれども彼らの目的は、そういったものを求めているからそうなったのではなく、
それらを身につけなくては、現実が不安と恐れでいっぱいで生き延びられなかったからなのです。

映画「ムーンライト」を観た、多くの日本人はこう思ったことでしょう。
アメリカの貧困に苦しむ黒人社会は恐ろしいが、特殊な世界だと。
マイノリティが生き抜くって大変だなぁと、
どこか他人事、遠い国の世界と感じていることでしょう。

けれども私たちは知っています。
これは、日本でも身近に起きている現実なのだと。
日本の各地にシャロンは生きているのです。

母親との再会シーン。
あの中に、多くのメッセージが込められています。

そして「ココで終わるの?」と、不満の声も多く挙がっていた
あのラストシーン。
陳腐な前向きヒューマンドラマにありがちなオチがついていない、
観るものに考えさせる、あのラストは完璧だと思いました。

映画「ムーンライト」に込められたメッセージ性、
リアルな真実の魂の呼びかけに、答えられるのは我々こそ、
できることではないでしょうか?

多くの社会の人達に観て欲しいです。
そして、多くのレビューをアディクト達から発信して欲しいです。
この映画のトークショーなども開かれているようですが、
「是非ともゲストに私を呼んで欲しい!」と、
こんなにも願ったことはありません。
どうかどなたか是非ゲストに呼んで下さい。

印象的なセリフを一つだけ。
「これこそが人生なんだ」

そう、私たちにはそれが分からなかった。
依存症になる前にも後にも、それが分からなかったのです。
回復した人だけが分かる生き方、
だからこそ、依存症の回復プログラムが生き方のプログラムと呼ばれるゆえんであり、
それは、やったひとにしか分からない醍醐味なのです。

映画「ムーンライト」是非観て下さい。
「ムーンライト」公式サイト

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現在国内の推定罹患者536万人(2014年厚労省)のギャンブル依存問題。
日本でもギャンブル依存症対策の導入を!
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[田中紀子の著書]
三代目ギャン妻の物語(高文研) ギャンブル依存症(角川新書)

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