父の遺品です

公開日: 

先日孤独死した父の件で、親族がまだ見つかっていないため、
部屋のかたずけや相続放棄の手続きなど、
まだまだやらなければならないことが残されています。

そんな中、今日は一応部屋に来ている郵便物などをみてくるか・・・
と思い、夫と共にドライブがてら、父が住んでいた部屋を見に行くことにしました。

病院から預かった荷物の中に、部屋の鍵があったので、
探しだし、机の上に置いたておいたら、夫がたまたま目にし、
「何これ~!加藤峻二~(笑)」と声をあげるので、
へ?っと思って「何?何?」と聞くと、
なんと、父の部屋の鍵には、往年の競艇選手「加藤峻二」のキーホルダーが付いていました。
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これには思わず爆笑してしまいました。
うちの父親、本当に期待を裏切らない人です。
そして、それに目ざとく気がつく夫。
さすが!筋金入りの競艇ギャンブラーです。

ちなみに加藤選手は、夫も私も現役時代比較的好きだった選手で、
何度も彼に賭けていたので、変な所で父親と趣味があい、
「やっぱあの人の遺伝子あるのね・・・」といや~な気分になりました。

母親もいたので、母に
「昔は競輪だったんでしょ?」と聞くと、
「あいつは競馬でもなんでもやるんだろうけど、
あの頃一番はまってたのは、西武園競輪。家の近くだったから。」
と言っておりました。

最期の住処は、戸田だったので、
「戸田に引っ越したから、今度は競艇になったんかね?」と、
3人で話しました。

夫と、戸田に行くと、高速を降りるとすぐに、
かつて散々通った戸田の競艇場が視界に入り、ゾワッとしました。

久しぶりに競艇場を見たんですが、私の場合
「あぁ~これもう一度でもやったらあっという間にハマるなぁ・・・」
と実感しましたね~。
一瞬にしてあのモーター音、歓声、スピード感などが頭の中によみがえり、
自助グループでプログラムを続けてなかったら、
絶対スリップするだろうなぁ・・・と思いました。

もうこれは理屈じゃないんです。
まさに感覚がよみがえる。
そうとしか言いようがありません。

よく、自転車にずっと乗っていなくても、また乗れるように、
依存症者はすぐ依存症に戻る・・・って言いますけど、
今日、改めて感じたのは、それともまた違うなぁ~と思いました。

別に、私も自転車になんかもう何年も乗ってませんけど、
「乗りたい!」と思う感覚もない訳ですよ。

でも競艇場を目にしただけで、
「うわぁ~~~~~~~~~」という感じで、
あの時の興奮やいても立ってもいられない感覚がよみがえる感じ。
ただ今は、ずっとやっていないので、
そういった「感覚」とか「衝動」よりも「理性」が勝てるので、
「こりゃ、やったらやばいことになるな・・・」と思えて、
近づかずにいられるわけですね。
ただ、やり出したら、すぐに理性は負けるなぁ・・・
と、依存症のメカニックを改めて実感しました。

まぁ、そんなことを考えているうちに、父の家に到着したので、
「加藤峻二」キーホルダー付き鍵で、玄関をあけると・・・
夫が開口一番
「ほら~競艇カレンダーだらけじゃん!」と、嬉しそうに雄たけびをあげました。
本当に予想通りな父。
確かに、家の中には2016年、2017年と2年連続競艇のカレンダーがかかっていました。

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さらに目ざとい夫が、「あれ!?うちの写真がある!?」
というのでどれどれと見てみると、
以前、父親が、母の写真が見たいというので、
息子と一緒に写ってた写真を送ってあげたものでした。

どういう訳だか、その写真がTVの上に飾ってありました。

父は、ホントそういう人なんです。
TVドラマだったらですよ、うっかりすると感動的なシーンに
仕上げられちゃうかもしれないですけど、
別れた女房と、見たこともない孫の写真をわざとらしく写真立てに入れ、
一番目立つ所に置いてみる。
そんな自分に酔っている父の姿が目に浮かぶようです。

「本当はこんなに家族を愛しているんだ自分は・・・」と、
自分を誤魔化し、自分をだまし、美化し続け
自分のやっていることを否認し続けた父。

1円だって仕送りをしてこなかったくせに、
「一日も忘れたことはないよ」と堂々と言い放つ父。

別れた女房と孫の写真を送ってきた娘に対し、
美談の仕上げをするかのように、飾り立てる父。
そして、その裏で、40数年ぶりに会った娘に、
5000円をせびる父。

本当にとことんまで依存症におかされたギャンブラーであり続けた父。

現実というのはきっちりと、
依存症者のありのままの姿を見せてくれるものです。
下手な美談なんか絶対ない。
倫理的道徳的なオチをつける必要も全くない。
そのまんま受け止めればいいだけなんですが、
家族も回復していないとそれができず、一生懸命オチをつけようとして、
苦しんじゃうんですよね。

今の私には、なんら現実をねじ曲げる必要もなく、
「お父さんは、本当はあなたを愛していたはず・・・」
といったおためごかしを誰からも聞かされる必要もなく、
もちろん憎むことも、恨むことも全くなく、
「あぁ、ギャンブル依存症者の最期ってこういう風になるのか」と、
淡々と、むしろちょっと面白いなぁ~と思いながら受け入れています。
そしてその自分の回復の現実を、
なによりも「有難いなぁ~」と感謝しています。

父の遺品にもちろん欲しいものも、めぼしいものも、何もありませんでしたが
母と息子の写真だけは大切に持ち帰りました。

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三代目ギャン妻の物語(高文研) ギャンブル依存症(角川新書)

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